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大阪地方裁判所 昭和37年(ワ)2609号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕一、原告が、木村広治に対し、昭和三一年二月二一日、本件貸室を、事務所として賃料一ケ月金八万九、〇〇〇円、期間三年、無断増改築禁止、無断転貸借禁止の特約つきなど、原告主張の条件で貸与したここと、右賃貸借契約によつて定められた期間は三年であつたが、期間満了後法定更新されたものであること、及び右木村広治を代表者とする被告会社が昭和三五年七月三〇日設立されるや、被告会社が原告の承諾を得て右賃借権の譲渡を受け、賃借人たる地位を承継し、引き続き原告より本件貸室を賃借していることの各事実は当事者間に争いがない。

そして建物の賃貸借契約において、期間が満了し決定更新された場合には、以後は期間の定めのない賃貸借契約となるのであつて、これに反する被告の見解は失当である。

二、そこで原告主張の正当事由による解約申入の当否について判断する。

(一) まず原告が正当事由に基づく解約申入れの意思表示をなしたか否かについて検討するに、<証拠>を総合すると、原告は、代理人である弁護士ジョンジェ・ジェンテレラを通じ、昭和三六年一一月一六日、本件賃貸借契約が昭和三七年二月二〇日に、期間の満了により終了することを前提として原告において営業のため本件貸室を使用する必要があるから、右終了を機会にこれを明渡して貰いたい旨を記載した書面をその頃被告に送付して到達させたことが認められ、この認定に反する証拠はない。

すなわち、原告は、期間の定めのある賃貸借契約が期間満了後に法定更新された場合には、その賃貸借の期間は前契約と同一になるとの見解のもとに、本件賃貸借契約は、昭和三一年二月二一日成立して以来右書面が被告に到達するまでの間に一回更新されており、従つて昭和三七年二月二〇日の終了と同時に一度更新された賃貸借契約の期間が満了するものとして更新拒絶の意図のもとに右書面を被告に発信したものと認められる。

したがつて、右書面は解約の意思を表示する意図で作成されたものではないが、原告としては右書面をもつて結局のところ本件貸室を自己使用する必要があるからこれを明渡して貰いたい旨を被告に申入れているのであつて、被告においてもこの趣旨を理解していたと認められるから、右の如く法定更新された後の賃貸借の期間について原告の代理人である弁護士に誤解があつたとしても、右期間満了に伴う更新を拒絶する旨の意思表示のなかには解約申入れの意思が含まれていたものと解するのが相当である。

(二) そこで次に右解約申入の正当事由の存否について検討する。

まず原告側の事情について見ることとする。

<証拠>を総合すると左の事実が認められる。

(1) 原告は香港に本社を有する貿易会社であつて(この点は当事者間に争いがない。)、シンガポール、アデン、カノ、カンバラ、ボンベイ、ラゴス並びに大阪の世界の各都市に支店を有し、従業員八〇名から九〇名位を使用している。原告は、主にその各支店において、その支店所在地の商品を買付け、それを他の国の支店に輸出するという方法で貿易業務を行なつている。

(2) 原告の大阪営業所は、本件ビル内に存するが、商法上の外国会社としての営業所の登記は、昭和二六年になしたものの同三三年一二月三一日に廃止してしまつた(廃止の点は当事者間に争いがない。)。

そして現在原告大阪営業所が行なつている業務は、本件ビルの維持、管理、並びに日本より輸入を希望している支店へこれを輸出することである。但しその輸出業務は、日本の商品を香港の本社へ輸出し、そこからさらに各支店へ輸出するという方法によつて行なつている。このため原告大阪営業所では、香港の本社から信用状の送付を受け、これを日本の各商社と交渉のうえ割振り、その各商社から直接香港へ輸出するという方法をとつたり、原告大阪営業所において直接日本製品を買付け、これを香港の本社へ輸出するという方法をとつたりしている。しかし右のような方法で原告大阪営業所が関与している取引は原告の日本における取引割合からいつても僅かで大部分は原告の本社が大阪営業所を通さず、直接日本の各商社と取引をしている。すなわち原告会社が日本で商品を買入れ、輪出する先は主にナイジェリアであるが、原告会社によつて日本からナイジェリアへ送られた商品の額は、昭和三七年には約一九万六二〇〇ポンド(約金一億七、〇〇万円)、同三八年には約三一万ポンド(約金二億七、〇〇〇万円)、同三九年には約四〇万五二四〇ポンド(約金三億五、〇〇〇万円)、同四〇年には約二〇万ポンド(約金一億七、二五〇万円)、同四一年には約二〇万三四〇ポンド(約金一億七、五七〇万円)となつているが、このうち原告大阪営業所が寄与したのは約五パーセントにしか過ぎない。

(3) 原告大阪営業所には、原告会社の直接の従業員であつて、原告会社の業務につき代理権を授与されている者二名(マネージャーと称し、本社より派遺された者一名、日本に常駐する者一名の外国人である。)、並びに同人らによつて雇用された日本人従業員六名ないし八名(うち二名は電話交換手である。)が勤務している。

貿易業務のうち、原告大阪営業所が行なつている事務は、前記マネージャーが、日本の各商社、商品供給者並びに買手たる外人ハイヤーと面接して商談すること及び輸出に関する書類をタイプライターを使用して作成することにある。現在原告大阪営業所が右営業のため使用しているのは、本件ビル一階の一一号、一二号、一三号の各室であり、他に電話室、炊事場を使用している。しかし、一三号室は物置に利用しているため、事務所として使用しているのは一一、一二号室の二室のみである。

(4) 右二室のうち二号室は、面積約二六平方米で、そこへ机六台が置かれ、各机の上に一台づつ電話、タイプライターが設けられ、日本人従業員六名位が事務並びにタイプライターを使用して書類の作成に従事している。このほか部屋の内には金庫一台、書類入れ三台位が置かれているうえ、入口付近に三点セットを置きそこを来客の控所としている。

しかし右のように利用しているため右一一号室は右備品のみで部屋一杯であつて、壁を利用して書類棚を設けて部屋を利用したりしている。従つて部屋全体は手狭な感じであつて、またタイプを打つ音が騒がしく来客の控所として快適ではない。また事務用品のうちタイプ用紙を入れるロッカーは部屋に入りきれず廊下に置いてあり前記三点セットのみでは後記の如くの多数の来客のためには不充分なため廊下に椅子が用意してある。

(6) 次に一二号室は、面積約一三平方米であつて、机三台大型金庫、書類入れ各一台が置かれ、机の上には電話三台、タイプライター一台が設けられ、前記マネージャーの執務室として利用されている。しかしここも右備品のみで一杯で手狭であり、取引先との面談もここで行なつているところ、その人数は日に四〇名にも及ぶことがあり、これら取引先は、通訳を随行したり、見本の品を持参したりするための部屋が狭いことに一層の不便を感じている状態である。

(6) 右の如き状態であるうえ、日本人従業員の大半は女性であるのにかかわらず、更衣室もなく、それどころか冬のオーバーをかける場所さえない位である。また来客に対するお茶等の接待の茶わんを置く場所の余裕もない有様である。

(7) かかる状態であつたところ、原告の本社は、前記解約申入をなす直前の昭和三七年一〇月一九日、大阪営業所に対し、香港における日本商品の需要が増大しているので、大阪営業所を拡大し、同営業所よりの日本商品の香港への輸出額を月額七万五〇〇〇ポンド(約六〇〇〇〇万円)以上にすること、並びにそのために営業所内にテレックスを設置することを希望することを希望してきた。右輸出額を達成するためには香港の本社へ多量の見本を送付すること、日本の各商社等との接触を密にすることが必要であり、そのためには日本人従業員の数を増やし、商談のための場所を拡大し、もつと快適なものにする必要がある。他方原告大阪営業所自身においても、日本の商社によつて香港の本社へ輸出している分を、自己が商品を直接買付けて輸出することをかねてから希望しており、このためにも右の従業員数の増員並びに事務所の拡大が必須の要件である。

以上の要求に応ずるため原告大阪営業所のマネージャーらは従業員を二〇名位に、事務所の広さを一六〇平方米位にしたいと考えている。しかるところ原告大阪営業所は昭和二五年頃から本件ビル内にあり、前記のとおり本件ビルの維持管理に従事していること、さらに本件ビルの通称「ブァスワニビル」が原告の商号と同一であることから本件ビル内に右必要に応ずるための事務所を増設することに大きな利益が存する。

以上の事実が認められ、右認定を左右するにたる証拠はない。

右事実からすれば原告大阪営業所は、現在使用している部屋のみでは、現在の規模での執務のためにも狭すぎるのであつて、従つて原告の希望にもかかわらず現在の部屋を利用するという方法では原告大阪営業所の規模を拡大することは困難であつて、そのためには他に部屋が必要でありその部屋も本件ビル内に存することが必要であることが認められる。

しかし他方<証拠>を総合すると次の事実が認められる。

(1) 本件ビルの地下には、別紙図面(二)記載のとおり①ないし⑥の部屋が存している。うち②、③、④、の各部屋は、原告が、エス、テイ、ビー、カンパニー、インド会社に貸与し、同社においてこれを輸出貨物の置場として使用している。また⑤の部屋はボイラー室である。しかし、①、⑥の部屋は現在まつたく使用されていない(但し⑥の部屋は倉庫である。)。

地下室はかなり日当りが悪く各室とも荒れており、現在これを事務室としてはいずれも使用されていない。しかし①の部屋について見るに、この部屋は広さが約五〇平方米ありその南側には二ケ所の窓があり、天井には螢光灯が一ケ所配置され、さらにここには電源もあり、ガス管も配置されている。また現在有効に使用できるか否かはともかくラジェーターも二ケ所設置されている。従つてこの部屋はもともと事務所用として造作されたものであり、現在も換気装置をつけるなど、手入れすれば事務所用として使用することができる。そして①、⑥の部屋を使用することにより、原告の希望する営業拡張に伴う事務所の拡大諸設備の増設の需要をほぼ賄うことができる。

(2) 右のとおり本件ビルの地下室に事務所用として造作されながら現在まつたく使用されていない部屋が一室、および倉庫が一室存するが、原告においてこれらを利用しようと努力した形跡はまつたく認められない。

以上の事実が認められ、証人アマール、同岡本和子の各証言中右認定に反する部分は措信できず、他に右認定に反する証拠はない。

次に被告側の事情を見るに<証拠>を総合すると次の事実が認められる。

(1) 被告会社は、新聞発行を目的とする株式会社であつて、代表取締役の木村広治及びその一族でその発行済株式の大半を所有し、また取締役等役員の大半を占めていている同族会社である(この点は当事者間に争いがない)。被告会社の前身は右木村広治が昭和二五年創刊した関西新報であつて(当時は旬刊)その後昭和三一年本件貸室を賃借するとともにここへ事務所を移し、新聞名も関西新聞と改め、その後昭和三五年に被告会社が設立されるに至つたものである。その後被告会社は新聞の発行を週刊から昭和三六年には夕刊紙専門の日刊紙とその業務を発展させ、日本新聞協会にも加盟するところとなつた。被告会社の現在の新聞発行部数は一日当り二万部から三万五、〇〇〇部位(日本新聞協会届出の公称は一二万部)で、その主な購買先は、大阪、京都、神戸の各市並びに東京都であつて、月間の売上額は約金一〇〇〇万円位、うち広告掲載料が七割位、残りが新聞の売上によるものである。営業内容は、これまで黒字の月が一ケ月あつたのみで赤字状態が継続しており、その累積赤字は約六、〇〇〇万円に達している。しかし被告会社代表者らの努力により近時、その赤字額も徐々に減少しつつある。

他方被告は右営業活動のほかに、地域の社会団体と協力して「子供を交通事故から守る運動」、「近畿は一つ」といつた運動を行ない、座談会、講演会などを開催するなど社会活動も行つている。

被告会社の事務室は、本件貸室、大阪市北区空心町、吹田市寿町の三ケ所にあり、従業員数は約八五名で、うち二五名位が、本件貸室に机一八台を置いて編集、企画、広告の整理、編集の連絡といつた事務に従事している。

(2) 被告は、本件貸室の西向いの河川敷に駐車場を確保し、ここに乗用車四台、発送用トラック二台を入れて営業のため使用しているほか、本件ビルの北側の大阪市所有の下水敷にもガレージを建設してこれを利用している。もし被告が他に移転すると本件貸室が大阪市内屈指の商業地に位置し、交通通信に便なることから、これと同程度の経済的効用のある代替貸室を確保しようとすれば多額の権利金、保証金を必要とするほか、移転後一年位、広告収入が四割方減少することが見込まれ、移転費用および電話の変更等移転により間接に生ずる費用の負担もあり、そのうえ右の各駐車場を利用する利益を失い、新聞社として必須の自動車の利用に支障を来たすこととなる。また現在関西の夕刊新聞の経営難が噂となつている折柄、移転すれば被告会社の経営が困難となつたとの風評が立ち、経営に悪影響を及ぼすおそれもある。すなわち移転により被告のこうむる損失は右の如く甚大である。

以上の各事実が認められ、右認定を覆えすにたる証拠はない。

そこで、右の原告側、被告側の各事情を比較勘案するに、原告の大阪営業所は、前認定のとおり、現在使用している部屋のみでは現在のままの執務にも狭ま過ぎ従つて原告の希望にもかかわらず現在のままでは営業の規模を拡大することは不可能であることは明らかである。しかし原告は、前記のとおり本件ビルの地下室のうち①、⑥の各部屋を容易に使用でき、これを使用することにより、ほぼその希望する事務所の拡大、諸設備の増加をなし得る。しかるに原告が敢えて地下室を利用しないのは、同じ一階にある本件貸室を利用した方がより便利だとの考えによるものと判断せざるを得ない。これに反し被告が本件貸室を明渡すことにより蒙る損害は前記の如く甚大である。そうすると、双方の本件貸室に対する利害に明白な差異が認められ、本件貸室が借家法が主として保護しようとしている住居用のものではなく事務所用のものであることを考慮しても被告の使用に優位を認めるのが相当であり、原告において本件貸室の賃貸借契約を解約するに足る正当事由は存しないと判断される。

以上の次第で原告の本件賃貸借契約は解約申入により終了したものであるとの主張は採用することができない。

三、次に被告の無断増築禁止の特約違反、信義則違反並びに当事者間の信頼関係の破壊を理由とする解除の成否について判断する。

<証拠>を総合すると次の事実が認められる。

(1) 本件ビル北側には、その敷地たる本件土地、さらにその北側には下水道敷の大阪市の市有地が存する。本件土地の形状は別紙図面(一)の(イ)(ロ)表示の斜線部分とおりである。後記の如く被告がここへガレージを建設するに至つた昭和三六年八月末までは、この二つの土地は空地であり、その境界はセメントで表示されていた。

そして原告大阪営業所は、本件ビルの手入れ、及び本件土地に降りている本件ビルの樋、本件土地へ埋めてある下水道の手入れなどのためにこの二つの土地を利用していた。またこの二つの土地は、本件ビル北側にある別紙図面(一)の(イ)に表示の非常口(A)からの西側表通りへ出る通路としても利用できた。ただし別紙図面(一)の(ロ)により明らかな如く本件土地自体は極めて幅の狭いものであつて、本件土地だけで右のような効用を発揮しえるものではなく、市有地を一体として利用することにより右のような効用を発揮していたものである。

(2) 被告は大阪市より市有地を賃借し、昭和三六年八月末ここにガレージの建設を始めた(この点は当事者間に争いがない。)。すなわち被告は市有地北側にある国際ホテルの塀と本件ビルの北側壁面を利用し、この間に梁をさしかけその上に屋根を葺くことによりガレージを建設しようとした。被告代表者は、北側の国際ホテルの壁の使用については同ホテルの了承を得たものの、本件ビルの利用については賃貸物件を利用するのであるうえ、本件土地も狭いものであるから原告関係者の了承を得るまでもあるまいと判断し、了承を得ることなく工事を開始した。

(3) 原告大阪営業所長(マネージャー)たるタハダニは、同年八月二八日になり、被告が右のとおりガレージを建設しているのを発見したのであるが、その時の工事の状態は、前記のとおり梁が四、五本ホテルの塀と本件ビルの壁との間にさしかけられることにより支えられ、これを補強するため柱が立ててあり、骨組みができあがつた程度であつたが、柱の一部は本件ビルの礎石及び本件土地に立ててありまたは建築用材の一部も本件土地に置かれていた。そこでタハダニは直ちに被告事務所に赴むき、工事を中止するよう申し入れたが、被告代表者が不在のため返答できないとのことであつたので、タハダニは、被告代表者の帰社次第話し合いたい旨申し入れておいた。その後被告代表者が同年九月初め原告大阪営業所を訪れてきたのでタハダニはガレージを建築するに当り本件ビル、本件土地へ侵入しないよう申し渡した。すると被告代表者はそれであれば、本件土地並びに本件ビルの壁面を正式に賃借したい旨申し入れてきた。その点は原告本社の許可が必要なので、タハダニは溜池弁護士と相談のうえ本件土地などの賃貸借契約の案を作成したうえ被告の要望どおり原告本社へこの点を打診するから、その間工事を中止して貰いたい旨被告代表者に申し入れた。しかしその後原告本社より被告へ本件土地などを賃貸することはできない旨の回答がきたのでタハダニは改めて被告に本件土地などを賃貸することはできない旨を伝えるとともにこれを明渡すよう申し入れた。

しかしこの間に、被告はガレージ建設工事を進め、同年一〇月初めにはこれを完成してしまつた。

(4) 被告は当初、本件土地の全部を利用してガレージを建設する意図であつたが、前記の如くタハダニより異議を述べられ、また溜池弁護士よりも市有地との境界線を指示されたうえ異議を申し込まれたため、本件土地上にあつた柱の一部を除去し、屋根も本件土地に侵入している部分を一部切り捨てた。

他方タハダニも被告の右工事と平行して市有地と本件土地との境界線上に板塀を設置しようとしたが、被告において工事の進行に伴い前記北側非常口(A)の扉を打ちつけて開かないようにし、またガレージの出入口にシャッター扉をつけたため本件土地に入ることができなくなり東半分位のみ板塀を設置したのみで全部につき設置することはできなかつた。

完成したガレージは、その敷地である本件土地と市有地にセメントを打ち、これを床とし、前記方法でさしかけられた梁並びにこれを支える柱、及び梁の上に葺かれたトタン屋根から成り、土台工事もしていない簡単ないわゆるバラック建である。梁のうち二本は被告の賃借している本件貸室の窓枠に、一本は共同便所の窓枠にかけられているがその余は被告に何ら関係のない部分にかけられている。但し釘で打ちつけてあるわけではなく細い木材を利用し止めてあるのみである。また屋根の東半分は原告側の設置した境界線上の板塀で支えられ本件土地に侵入していないが西半分は本件ビルに接着している。

(5) 右の如くガレージが建設された結果、地下室北側の一部の採光が悪くなり、また本件土地の西半分はガレージの表シャッター扉からしか入ることができなくなつて、そのため原告大阪営業所は、自由に本件土地、市有地に入つて、本件ビル、樋、下水道の手入れができなくなり、また北側非常口(A)もその存在価値がなくなつた。もつとも本件ビルには右非常口の外に別紙図面(一)の非常口(B)があり、非常事態が生じた場合この出口を利用した方が表通りへ出ることができ、事実原告大阪営業所では非常口(A)の裏側にドラム缶などを積み、開扉できない状態にこれまで放置していた。また下水道の手入れは本件ビルの内からもなし得るものである。

(6) タハダニは、被告のガレージ建設の開始が週末の休暇中であつたこと並びに工事の中止方の申し入れにもかかわらず被告が強引に工事を完成させたことから、被告は最初から既成事実をつくつて本件土地及び本件ビルの壁面を無料で利用する意図であつたのだと判断するに至り、右ガレージ建設の結果生じた被害とあいまち被告に不信を抱くに至つた。

そして原告は、ジエンテレラ弁護士を通じ前記昭和三六年一一月一六日付前記解約申し入れの書面をもつて同時にガレージの撤去方を被告に申し入れ、翌昭和三七年三月分より賃料金八万九、〇〇〇円の受領を拒否するに至つた。そこで被告はやむなく賃料を毎月供託して現在に至つている。

(7) ところがその後、被告は昭和三七年三月初め、原告大阪営業所の許可を受けず本件ビルの三階から一階にかけて、子供を交通事故から守る運動の一環としてその旨の標語を記載した垂れ幕をおろした。これを知つたタハダニは被告に取り除くように電話で通告したが被告はこれに応じなかつた。そのため同人は実力でこの垂れ幕を引きおろしてしまつた。その結果被告はタハダニを告訴し、タハダニは警察署及び検察庁で取調べを受けることとなつた。その後再び同年六月末にも被告は原告大阪営業所の許可を受けず、本件ビル西側壁面に約七米の「明日の大阪伸びゆく近畿」なる横幕をかかげた。この時はタハダニは溜池弁護士を通じ被告に撤去方を申し入れたが被告はすぐには取り除かず二、三ケ月後になつてようやくこれを取り除いた。

以上の経過を経た後、原告は昭和三七年七月三日被告に対し訴を提起するに至つたものである。

(8) ガレージは現在車二台の駐車並びに物置として利用されている。被告代表者木村広治としては前記の如き判断から本件土地及び本件ビルの壁面を原告に無断で利用したのであるが現在では了承を得ておけば良かつたと反省している。

さらに被告の掲げた前記各幕はいずれも被告が他の社会団体と協力してすすめている社会活動の一環として掲げたものであつて、この点被告自身の営業の広告とは性質を異にするものである。

以上の事実が認められ、証人タハダニの証言、被告代表者の尋問の結果中右認定に反する部分はいずれもこれを措信しない。

そうすると、被告が原告に無断でなした改築工事は、本件ビルへ梁を四、五本さしかけたこと、ガレージの屋根の一部を接着させたこと並びに本件土地にセメントを打つたことの極く小規模なものでこれによつて原告大阪営業所の蒙つた損害は前記(5)に認定した程度の僅少なものであつて本件ビルの効用が著るしく阻害されたとも認められない。なるほどガレージ建設の結果、原告の従業員が本件土地に自由に入ることができなくなつたが、元来本件土地自身では利用価値はほとんどないのであつて、これを利用するには市有地と共に利用するより他はなく、そうだとすれば被告が現在市有地を賃借しているのであるから、本件土地を利用するためにはいずれにしろ被告の協力が必要なこととなる。被告において原告が本件土地を利用するのを強度に拒んだとの事情でもあればともかく、そのような事情も認められないのであるから、右原告従業員が、自由に本件土地へ入れなくなつたことをもつて直ちに被告の背信行為と目することはできない。

また被告が原告に無断で本件ビルに幕を掲げたとの点も賃貸借契約を左右するほどの行為とは認められない。ただ被告においてタハダニの些細な行為を告訴した点は必ずしも穏当な処置とはいえないが、これとて結局タハダニが実力で垂れ幕を取り除いたことに基因するわけでこれをもつて被告を一方的に非難することはできない(幸いこの点は不起訴処分に終つたようである)。

結局原告側の当事者が外国人であつたことから原告と被告との間に国民的性格の相違などから意思の疎通を欠くことになり、また被告においてこの点への配置が欠けていたのではないかとは考えられるが、以上のとおりの事情から明らかな如く被告の行為をもつて賃貸人に対する背信的行為と評価することができず、結局原告が本訴状の送達をもつて被告に対し無断増改築、信義則違反、信頼関係破壊を理由としてなした解除の意思表示はその余の点を判断するまでもなくその効果を生じないこととなる。

四、次に無断転貸を理由とする解除の成否について判断する。

株式会社関西企画の登記簿上の本店所在地が本件貸室にあることは被告の自認するところであり、また昭和四三年九月一二日付関西新聞であることに争いがない<証拠>によれば、右関西新聞紙上に株式会社関西企画の本店が本件貸室にある旨宣伝されていること並びに株式会社関西企画から被告へ賃料名義で毎月金三万円の支払がなされている旨経理上操作されていることが認められる。

しかし株式会社関西企画が本件貸室を現実に使用占有しているとの点を認めるに足る証拠はない。かえつて被告代表者尋問の結果によれば、株式会社関西企画は名義上本件貸室に本店を置いているが、ここではまつたく営業活動を行なつておらず、吹田市寿町の事務所で営業活動を行なつていることが認められ、従つて前記経理上の賃料の支払も名目上(おそらくは税金対策上の処理)のものであることが認められる。

そうすると原告の無断転貸を理由とする解除の意思表示は理由がないこととなる。

五、次に立退料の提供による正当事由の補強を理由とする解約申入の成否について判断する。

<証拠>を総合すると、原告は、被告に対し本件貸室の賃貸借契約の解約申入の正当事由を補強するため昭和四〇年一二月一六日頃本件貸室の明渡と引換に金二五〇万円を立退料として支払う旨申出、昭和四二年四月二二日被告に到達した書面をもつてその額を金五〇〇万円に増額する旨通知し、その後昭和四四年八月にはその額を金一〇〇〇万円に増額する旨申し出た(立退料支払の申出があつたことは当事者間に争いがない)。

しかし被告代表者尋問の結果によると移転による被告の損害は金一、〇〇〇万円を以つても到底補償され得ないことが認められる。一方原告の被告に対する本件貸室の賃貸借契約の解約申入の必要が前記の如く、原告大阪営業所が本件貸室を使用できれば便利であるという以上に出ないのである。そうだとすると被告の営業がその場所を問わず、また代替事務所が容易に見つけられまた立退料をもつて移転による損失をほぼ完全に償えるような事情でもあればともかく、さような事情も認められない本件にあつては、右立退料の提供をもつて正当事由を補強することはできないところである。

(野田栄一 中山博泰 岡部崇明)

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